ソフィの向こうに見えるもの

Things I see over there of Sophie. ソフィとの暮らしから綴るエッセイ
第4章の2回目です
今日はソフィの11歳の誕生日です。

3年前の同じ日、この今日という日を一緒に迎えことができるなんて思ってもいませんでした。この仔は本当によく頑張っています。
でも今日ソフィを病院に連れて行った妻からの連絡で、緩和治療しかそろそろ選択肢がないと告げられてしまいました。ここ数日のリンパの腫れから大体想像はしていたのですが・・・
いままでたくさんの抗がん剤を投与して、憎きがん細胞も耐性を身に付けてしまい、今後新たに投与できる抗がん剤は副作用も大きく、恐らく入院も余儀なくされるものしか残されていません。
この仔は食欲もしっかりあってとても元気です。病気だなんてとても信じられません。
だからこの元気を奪ってしまう薬を、たとえ寿命が延びたとしても与えるべきではないと。それはこの仔にとってはとても残酷な私たちのエゴだと考えています。
ただただ穏やかに、いつも笑顔で傍にいてくれるよう願うばかりです。

さて第4章の2回目です。

私と妻が言い争うとき、この仔は懸命に私の口元を舐め、妻に寄り添い、そして再び私をじっと見つめます。それを幾度となく繰り返します。災いの元である私の口に、
「やめて!お願い、落ち着いて。」と、懸命に伝えます。
ある日、私と妻の言い争いが玄関口にまで及んだときのことです。
この仔は、私の声に興奮して喉が渇いたらしく、玄関の横にある水飲み場に行こうとしていました。私は、この仔の喉の渇きよりも自分の言い分を妻に吐き出すことを優先していたのです。ようやく水を飲ませることができ家に入ろうと促すと、この仔は一向にその場を動こうとしませんでした。いつもなら我先に家の中に入るのに、私を見つめこう訴えているように見えました。
「怒らないで!争いごとはいや!」
まるで、今のこの家の空気は許せないと言わんばかりに、その瞳は決して逸らすことなく私を見つめていました。そのかたくなな姿を目の当たりにし冷静さを取り戻した私は、この仔の目の前にひざまずきその頬をそっと両手で包み、
「分かった」
すると、私の口元をひとしきり舐め、いつものように家の中に入って行ったのです。
この仔に迷いはありません。我を省みない一途で正直な思いだけです。
「いつも穏やかでいてちょうだい。」と。
その瞳には、憐れみの心さえ感じます。
その淀みない暖かな心で包み込むように、それは思いやりの気持ちとできる限りのことをしてあげようという、まるで私たち夫婦が守られているかのようです。毅然と突き放す優しさもありますが、それは心安らぐ優しさそのものです。
こうして、妻との言い争いも続かず、その原因がなにであれ、私たち夫婦を謙虚な気持ちへと導いてくれるのです。
「分かった。ゴメン、もうしない。」
そして、喜びのキスの嵐。こうして私たち夫婦が癒されるのです。

つづく
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